高野の田のいちばん上に、長池という池があった。水がたいへんきれいに澄んでいて、鳥やけものが水を飲みによく集まって来た。

ある農夫が、田植えの前に、草刈でもしようと思って、朝早くこの池のそばを通りかかった。すると道の真中に、通せんぼをするかのように、子どもの頭ほどの太さの松の木が横たわっていた。

農夫は何気なく、それをまたいで通りすぎようとした。そのとたん、足をふれたわけでもないのに、その松の木がぐっと動いた。「あれっ」と思って見ていると、横になっていたものが縦に起き上がったのだ。

肝をつぶして思わず逃げようとすると、そいつは、ぐぐっとこちらに近づいてくる。

そして、あっというまに、後ろ向きになった農夫の肩にのしかかり、がぶっと胸にかみついた。それは大きな蛇だったのだ。むちゅうになって持っていたかまを振り回した。

それがどこかに当たったのか、蛇はずるずると長い体をひきずって池の中に姿をかくしてしまった。

幸い胸の肉を少し食いちぎられただけで命は助かったがそれでも三月ばかり起きられなかったという。

このことを聞いた村の人達は、それからは古なわ一本でもかならず棒でつついて蛇がでないことを確かめてから道を歩いたという。